2016年11月16日

消費されない仕事

先週日曜日、NHKスペシャル『終わらない人 宮崎駿』を視ました。

ジブリのアニメが大好きなわけでもなく、宮崎監督自身や彼の言説に特別な興味があったわけでもなかった私ですが、監督のお人柄にガツンと見事やられてしまいました...!

視終わった後、まるで、垢がたまった体の内側を、大量の水でザーッと洗い流してもらったような爽快感。そして、その後、じわじわと私の中を満たしていった懐かしいような確信......。

2013年に一度引退した宮崎監督が、再び「世の中に向けた何か」を創造する人として次第にエンジンがかかっていく姿を視ながら、私の中の「私」が目覚めていくようでした。


放映後、話題になったのは、やはり、宮崎監督が再び長編映画に取り組む可能性が示唆されたこと。

番組のエンディング近く、宮崎監督は「長編覚書」という手書きメモを盟友である鈴木プロデューサーに恥ずかしそうに見せます。
そこには、通常5年かかる映画化までの道のりを3年に短縮したスケジュールが書かれていました。

「3年ってこんなに時間がないんですよ。鈴木さんは、できる限りのことをしてカネを集めてください」

2019年のところに引き出し線で"公開"と書かれており、その下に、「78歳、まだ生きているかも......」と(  )書きが。

グッときましたね。

「何もしないで死ぬよりは、何かをしながらだからまだ死ねないと思いながら生きるほうがいい(そんな感じのご本人の独白)」

あぁ、なんてステキ! !!

一度は諦めた長編への挑戦に、結果的に宮崎監督を猛然と奮起させ、最大の刺激をもたらすことになったのは、番組の見せ場にもなったあの出来事。昨年(株)KADOKAWAと経営統合した、「ニコニコ動画」で有名なドワンゴの皆さんがAI(人工知能)を使ったCGの新しい技術(人の動き)をプレゼンする場面です。

二分された画面の左側には、奇妙な不気味な動きをする頭のない人間の体とおもぼしきものが、そして右側には頭を足のように使って動いているこの世のものとは思えぬ怪物のようなものが......。

「頭という概念がなく、痛覚もないので、頭を足のように使って動くという、普通の人間ではあり得ないこのような動きもこのAIを使った技術なら可能。この動きが気持ち悪いのでゾンビゲームなどに使えると思う」

と、得意気に語る代表の川上氏。

吐き気を催すような嫌悪感......私は胸が締め付けられました。

宮崎監督は、おもむろに口を開くと、静かに、また、穏やかに次のように切り出しました。

「僕はね、毎朝の散歩で、この頃毎朝じゃないけど、出会う障害者の友人がいるんですよ。彼とね、ハイタッチするんですが、しようとするんですが、(彼は)筋肉がこわばっているから、そのハイタッチすることすら大変なんですよ。その彼のことやそうした人たちのことを思うと、僕はこれをとてもおもしろいとは思えないですよ」

「極めて不愉快です」

「生命に対する侮辱を感じます」

です、です!!!宮崎監督~!

私の中の言いようのない気持ち悪さを、非常に明快な言葉でズバリ代弁していただいたような腹落ち感......。

このエピソードについてはネット上で宮崎監督のコメントや態度に賛否が分かれているようです。
が、私は監督と川上氏のどちらが正しい/正しくないという論は不毛だと思っています。

むしろ、あの場面を視た我々が何をどのように感じたのか、が重要であると。

川上氏やドワンゴチームの皆さんにとっては、あくまであの動画は実験の1つであり、新技術の素晴らしい可能性を披露したかっただけなのでしょう。

両者の間にある溝=違いは、寄って立つもの、仕事に対する理念や姿勢、生命に対する哲学ではないか......。

宮崎監督の静かで穏やかな中に怒りを込めたあのコメントに、監督の命への尊厳と深い愛を強烈に感じました。

宮崎作品に一貫しているメッセージ。
監督は、オリジナルな世界でそれを表現し続けてきただけ。


このところ私は、受けを狙った、あるいは受けを良くしようと顧客に媚びた仕事、稼ぐためだけの仕事にますます意欲が持てなくなってきていました。

頭と体が反応しないのです。

そんなこと言ったって、生活のため、生きるためには、時にそうした仕事も受けざるを得ないのでは? それがこの現実社会に生きると言うことでは?

そうかもしれません。

でも、私はこれまでの経験から、その結果自分がどうなるかを知っています。
エネルギーをひどく消耗し、疲れ、空しく辛くなることを。

理由は、消費されてしまうからです。

ここで言う「消費」とは、労働に対する対価としての「消費」の意味ではなく、本質的なことではない一時的な目的のために食われ、短期間に捨てられあるいは忘れ去られていくという意味の「消費」。

宮崎監督の輝く目を見て、思いました。

やっぱり、消費される仕事の対極にあるものを目指していきたい!
そのためにも、自分の中の愛の源泉とつながり、そのエネルギーから何かを生み出すようなことを、創造する仕事をしていきたい!

久しぶりに、ドキドキワクワクしました。