2013年12月 4日

農家の自立を阻む人たち

先月末、岡山県の6次産業企業化研修(あなたの6次産業"伝える・伝わる"セミナー)の連続講座が最終回を迎えました。

思えば、さかのぼること今年の2月。
岡山県備前県民局主催の6次産業化をテーマにした私の講演終了後、長年の友人のUさんとその上司(当時)のHさんから、岡山県の6次産業化の人材育成をもっと実効性のあるものにしたいと相談を受けたことに端を発します。

「これまでもさまざまな6次産業化の研修会を実施してきたが、効果が出ているとは言い難く、受講生が日常の中で学びを活かし実践して変化していくような『実効性のある』研修がなかなかできていない」
と、お2人。

その大きな要因が、よりよい商品をつくり、事業化したい!という意欲的な人たちと、どちらかといえば、地域づくりや生きがいづくりの一環として楽しくやっていきたい人たちが混在しており、現状では両者を一緒くたにして各種研修会が行われていること。
その結果、どちらもフラストレーションを感じてしまっている、両者を分けて研修したいのだが、これが難しい......とのことでした。

両者のうち特に問題は後者=6次産業化を商売と捉えていない人たち。
言ってみれば、
本業がしっかりあるので、儲けを考える必要のない人たち。
いわば、片手間6次産業化に取り組む人たちとでも言いましょうか...。

いえ、どのような生き方・経営をしようがその人の選択なので、一概にそれが悪いとは言えません。楽しく、生きがいづくりで加工や商品づくりをすることを否定はしません。ただ、必死で生きるために(食べていくために)1つのモノを商品化して収益を上げたいと懸命になっている人たちと、「稼ぐ必要ないから」と、のんびり構えている人たちとが「6次化」という同じ枠で括られるのはどうでしょう?
そもそも商売に対する意識が違う両者を同じ研修に入れてしまうのは無理があります。

そこで、私から「自分がどちらのタイプなのか」を判断しやすくして、自らタイプ分けしてもらう「振り分け研修」を提案しました。
そして、今年6月末、振り分け研修を実施。結果的に、両者がきれいに振り分けられた格好になりました。

その後は、今年度は先の前者(現状打破で本気で商品づくりに取り組む、ビジネス6次産業志向者)を対象とした商品づくり(ブラッシュアップ)5回連続研修会(6次産 業企業化研修)が実施されたのですが、後者(楽しい生きがいづくり6次産業志向者)のフォローについては次年度以降の積み残し課題と なりました(これについては後述します)。


ところで。
そもそも、日中何かと多忙な(天気次第でやるべき作業も変わる)農家や農業関係の組織を対象とした連続講座は無理、ましてやワークショップなんかあり得ない...というのが大方の見方でした。
行政が開催する無料の講座や研修会でさえ、事務局がお願いして動員しなければなかなか参加者が集まらないような状況に、自ら考え作業し、宿題が出る研修会に一体誰が出たいというのか? 一体何人が集まるのか? もっと言えば、農家にそんな難しいことをやらせてどうする?

周囲の不安と疑問の中でスタートした研修でしたが、私は当初から、きめ細かいワークショップを予定していましたので、マックスで25名までと考えていました。
で、蓋を開けてみると......20数名が集まってくださいました。

しかし、やはり普段使っていない脳のある部分フル活用し、考えないことを考え、言葉や文章にして発表したり、宿題をこなしていくのはかなりハードルが高かったようです。
うち何人かが脱落されてゆき、平均で13~15名に、最終回は10名弱という結果でした。

先日は、その最後までついてきてくださった10名弱の皆さん1人ずつが自分の商品について売り込みをする=プレゼンテーションの回でした。

終わってみれば、皆さんの成長ぶりには目を見張るものがあり、中には当初に比べて180度ぐらい変化された方もおられました。

「自分の(商品や事業の)ターゲットがバシッと決まったことが本当によかった。それによって、焦らず自分の事業を進めて行こうという方向性が見えてきた」
「日常では考える時間もなく、この研修が自分を振り返る場だった。研修で指摘を受けるたびに、とても謙虚になれた」
「自分がいかに商品づくりを甘く考えていたかを思い知らされたと同時、もっときちんと考えて覚悟してつくる必要性に目覚めた」

などなど、うれしい感想をお聞きすることができました。
とはいえ、皆さん、きつかったと思います、大変だったと思います。
お仕事の合間に宿題をこなし(それも面倒なものばかり...)、研修ではうんうん頭を抱えて悩んで。

それでも、「質の高い商品をつくりたい」、「売れる商品をつくって、収益を上げたい」と、皆さん、高い意欲と強い意志を持って臨んでくださいました。

Uさんが、研修を企画する当初、私に言ってくれたことを思い出します。
「いいんです、最後まで残ってくれるのがたった1人でも。たった1人でもいいから、本気で6次化を手段に自立しようとする人が出てくれれば!」

「『ああいい話を聴いた、よかったね』で終わるお勉強研修会はもういいんです、学んだことを自分の仕事に活かして即実践していけるような、成長が見えるような研修にしたい」

今回の研修会がここまでこれたのも、また企画・実施できたのも、Uさんの並々ならぬ熱意があったからです。
Uさんがいなければ、この研修はあり得なかったでしょうし、実現できなかったと思っています。

最後までがんばってくださった受講生の皆さん、そしてUさんはじめ事務局の皆さん、本当にありがとうございました!!!


さて、そのUさんと現在の上司であるYさんが強い問題意識を持っておられるのが、前述の次年度への積み残し課題。
先の「ビジネス6次産業派」と「楽しく生きがい6次産業派」のうち、現実には後者が大半(岡山県の場合。でも、全国的にみても同様の状況だと思います)であるにもかかわらず、国や県の施策は前者のみに集中していること。正確にいえば、前者しか対象としてないことにあります。

どうも私にはその根底に、「農家に難しいことを言ってもどうせ無理、できない。だったら、農家は原料供給だけしてもらって、あとは2次・3次(商・工)に任せればいいじゃないか」という考えがあるように思えてなりません(穿った見方でしょうか?)。

また、「だから、そこはプロのコンサルに任せない。私が売り方を教え、デザインも考えて、価格も付けて世に出してあげましょう」という、いわば弱みに付け込んだ商売をする人々の存在......。

「ちょっと、待て。おまえもその1人ではないか!」

と、お叱りを受けそうですが、少なくとも私は農家や地域を食い物にする商売はするまいと肝に銘じてきたつもりです。
もちろん、仕事に対する対価はきちんと受け取ります。
が、基本は、農家や地域の皆さんの戸惑いや迷い・悩みを共有し、課題を整理し、一緒に道筋を考えることで、皆さんが他者の手を借りずとも自ら考え行動していく力となれるようお手伝いすることが私の仕事であると思っています。

従って、今年度の岡山県の事業のように、受講生(農業者や事業者)にとっては厳しく辛い部分もあったかもしれませんが、敢えて、自ら考えて手を動かし実践して変化を起こし成長していくような研修プログラムを組みました。

私は、農業者の皆さんの自立を手助けする(と言ってはおこがましいですが)ために仕事をしたい、そして、私も一緒に悩み、成長したいと思っています。

しかしながら、自分のカネ儲けの道具として悩む農家や地域を捉えておられる方々は存在し(露悪的か否かは別として)、悲しいことにそうした方々の手法を行政が好む、つまり利害が一致しているという現実があります。

嫌な言い方ですが、農家が何も考えず、自立できないままのほうが得する方々がたくさんいらっしゃって、その方々にとって、現状が維持されるほうが都合がいいということでしょうか。

支援する、支援しているつもりが、実際は農家の自立を阻んでいる......。

全部やってもらえればラクです。しかも、行政がおカネを出して、身銭を切らずに済むのであればラッキーだと思われるでしょう。
しかし、自ら考えず、他人にやってもらったことは、当然のことながら身に付きません。
次に別の商品をつくる、販売するという時、また同じ問題が出現します。
なぜならば、その問題はあなたの中で解決されていないのですから。

本気で意欲を持ってがんばりたい農家の皆さん、自治体の皆さん、気づいてください。
本当に支援する、されることの意味に。

そう考えると、真剣に、6次産業の本質を大事に、農家のための6次産業を真正面から捉えた支援事業を組もうと努力されている自治体があることに救いを感じます。
岡山県ってスゴイです!!!

次年度、岡山県では、国や県の支援の枠に入ってこない人たちが意欲的に農業で自立できる手段としての、新たな(今年度の事業を補完する)6次産業事業を検討中です。
具体的には、集合研修に、受講生の農業の現場訪問という個別の問題点に対してフォローするコンサルティングも付加しようというもの。

Uさん、Yさん、次年度の事業が実現(無事予算化)できることを祈っています!