2013年8月13日

聞くことは難しい、でも深くておもしろい

阿川佐和子さんの著書『聞く力』を読みました。
もともとベストセラーとかいうものを好んで読むほうではない私ですが、書店で平積みになっている同書を何気に手に取りました。
パラパラとページをめくるうち、阿川さんの文章にくぎ付けに。
もちろん、阿川さんの文章が巧かったことも一因ですが、それより何よりも、
「これって私のインタビュー方法と一緒だ!!!」
私自身のインタビュー経験、試行錯誤して編み出してきたと思っていた私なりの手法が、そこに書いてあったのです。

そう書くと、あの著名な阿川さんと、しかも、週刊文春で長年対談をしてこられた「プロ」と同じだなんて、なんと身の程知らずと思われることでしょう。
でも、ホントなんです。

大学で社会心理を学び、グループセッションに多少の知見があったとはいえ、学生の当時はそれほど興味を感じてはいませんでした。
しかし、なぜか卒業後メーカーのOLになってから、突然にカウンセリングを学び始めました。周囲の人にクライエント役を担ってもらい、私はカウンセラーとしてその人の話を聞き、それをテープに録音して逐語記録を取り先生に送ると、先生から赤字とコメント入りの私の逐語記録が返送されてくるという通信教育でした。

その時初めて、「カウンセラーはしゃべってはいけない(正確には、会話の主導権を握ってはいけない)」ということを知りました。
会話はキャッチボールですが、カウンセリングは「会話」ではありません。クラインエントの話を聞く場です。

「そうですか」「ええ」などのうなずきと「それから」などのうながし、あとはクラインエントの話した言葉を繰り返すことしかできないのは、当時の私にはものすごく苦痛でした。テープに起こすと、自分の発言部分が妙に間抜けに見えたものです。
でも、担当のH先生は回を追うごとにとてもほめてくださり、私は「これでいいのかなぁ。ただ、私は何もしゃべらず、『うんうん』って聞いてるだけなのになぁ」と思っていました。

そのうちに、職場を変わり、雑誌の仕事をするようになると、カウンセリングの場をつくる時間がなくなり、私の疑似カウンセリングにつきあってくれる相手を探すのも大変で(そりゃそうですよね、自分の心の内をさらけ出すことになるのですから)、カウンセリングの勉強から遠ざかってしまいました。

H先生からは、何度かお電話をいただき、「あなたにはとてもいい素質がある、ぜひとも続けてほしい」とおっしゃっていただいたのですが、本業の多忙さにかまけ、それっきりになってしまいました。

まったくの未経験で雑誌の仕事をはじめ、一人で取材に出かけ、インタビューして執筆することを続けていたある日。
そういえば、「普段はこんなこと話さないのに。ついしゃべっちゃった」とおっしゃってくださる方が多いなぁ、またよく涙を流しながら話す方もおられるなぁと思うようになりました。私の執筆した記事には、「私の一番言いたかったこと、言葉にできなかった心の中の思いを書いてくださり、本当にありがとうございました」という喜びのお手紙もたくさんいただいていました。

「そうか私のインタビューって、カウンセリングだったんだ!」
そのことに気がついたのは、雑誌の仕事に関わるようになってだいぶたってからです。
私の、完結しなかった中途半端なカウンセリングの勉強は、実はああこのためだったのかと1人ごちて、納得したものです。

話を戻しますね。
阿川さんが『聞く力』に書かれているのは、まさに聞くというカウンセリングの基本。
そこから、あくまで相手とその場の状況に応じて、相手から話の核となるものを引き出していく。
私も、阿川さんと同じように、相手に鋭い質問を投げかけて切り込むようなインタビューができない自分を、他のジャーナリストと比較して、だからプロじゃないのかと悩んだ時期もありました。

でも、私流のインタビューで心地よく話してくださる方がおられること、また、これまで他のメディアで語っておられないエピソードや深い胸の内が聞けることから、「これが私のスタイル。これでいいんだ」と自分を励ましてきました。

憧れの、あのステキな阿川さんと一緒だった!
この感激は、私のさらなる自信となりました。

カウンセリングで学んだ基本は、私の全ての仕事のベースになっています。
プランニングやコンサルティング、各種コーディネートでは、まずは徹底的にお客さまの声に耳を傾け、上辺や建前の言葉の裏にある本音・心の声を聴き、目指すべき方向を共に見つけてその目標に向けて最適な手段を決め、作業を進めます。

研修やワークショップ、講演の場合、多くは私が話す側になるわけですが、その時も、聞く側の思考の流れを予測し、それにできるだけ沿う形で内容を構成するようにしています。

聞くことは難しい。
でも、深くておもしろいです。
今も、まだまだ修行中。そしてこれからもずっと修行です。