2012年12月16日

私が出会ったいちぐう人! Vol.3 異色の米屋、石川さん(4)

(3)から続く

「お客さまを見ずに、マーケティングはできない」

ある時、スタッフの議論を聞いていて、石川さんは思った。
「それは内部の論理。お客さまのことを考えていないじゃないか」

店側は「売り手」でありつつも、各自は生活者であり、「買い手」でもある。
「自己満足じゃダメだ。自分たちが『買いたい』ものを売ろうと考えると、うまくいく」
ここ2年でスタッフも大きく成長したと感じている。


生産者と商品を結び生活を創造する

2012年のバレンタインデーとホワイトデーには、ユニークな試みを行った。
君津市小糸地区の知人が生産するカラー(白いラッパ状の花をつける植物)と供に君津産の米を販売。大好評だった。
「彼はカラー生産の第一人者。全国の総生産量600万本のうち、200万本が千葉県産。そのうち60万本が小糸地区産です」
花があるだけで、店舗や家の中が華やかになる。
「癒しの空間を家庭につくってもらいたい」
商品を販売するだけでなく、暮らしに賑わいを演出する感性をも提供したいと考えている。

米の取引先である山形の生産者の野菜の宅配も始めた。予約制で、タイムラグ1日で鮮度の高い野菜を毎週30軒に配送している。山形特産の「ウマッコリー」(ブロッコリー)などの野菜には必ずレシピを同梱している。

宅配で扱う山形産野菜は、約30年の付き合いの生産者・城戸口捷巳さんが経営する直売所のもの。
60軒以上の農家が出荷している。
石川商店に顧客から来る注文を城戸口さんがまとめて梱包し、石川商店に送ってくれる。
抜き打ちの残留農薬検査も、城戸口さん自ら負担して行っている。
「私たちが認める安全基準を十分に満たした野菜です」
石川さんは全幅の信頼を置いている。

朝9時に石川商店に届いた野菜を顧客毎に仕分けして、その日の午前中に配達を済ませる。
「儲けはありません。お客さまとのパイプづくり。いわばご奉仕品です」

店頭では、年間を通じて旬の青果も販売している。
和歌山県の有田地方のみかん、岩手のブルーベリー、北海道のじゃがいも、玉ねぎ、山形のさくらんぼ、ラ・フランス、リンゴなど。どれも石川さんが自身の足で探し出した味のバランスの良い逸品ばかりだ。
「目利きが認めるよい物を販売していきたい。それがうちの店の評価にもなりますから」

DSC_0236.JPG▲店内で販売の野菜たち。石川さんが自ら足を運びセレクトしたものばかりだ。 撮影:林 泉

いつも親子をキーワードに考える。
現在は核家族。大勢でわいわいがやがや食卓を囲む雰囲気を提供できないか。
食卓での会話のきっかけづくりにと、子どもたちの工場見学や田んぼ体験、房総の郷土料理の太巻き祭り寿司教室を始めた。
母親たちからは、「好き嫌いなく食べるようになった」、「お手伝いをすすんでするようになった」などのうれしい声が聞かれるようになった。
「うちの役割は、生産と商品を結ぶこと。食材をつかって上手に食卓を演出して生活を創造できるような会社でありたいと思っています」


それは世の中に広く役立つものか?

現代では、本当の価値は流通されないと石川さんは言う。
「いいものは消えるんです」
その理由は、コスト・手間もかかる商品に、「生産者がやりくりできず、がまんできなくなるから」
結果、いいものをつくる人は一握りしか残らなくなる。
全国を回り、現地に足しげく通った実感が、その匠の技を若者たちに伝授し、「いいものをつくる」次世代の生産者の育成のしくみづくりへと急がせてもいる。

「私が考える新規就農者の条件は3つ。農業をやりたいという強い気持ち。農家と気持ちが合うこと。そして、食に対して真摯に考えることができることです」

新商品を開発する時は、いつも自問する。
それは、私利私欲からやろうとしていることではないのか?
それは、広く世の中の役に立つものか?

「そのことを常に自戒しながら、これからも食と農業に、社会に貢献していきたい。そして、お客さまに選ばれる会社でありたいと願っています」

(終わり)