2012年11月23日

ある日の電車の中で

帰宅時間で混み合う、ある夕刻の電車内でのこと。私はつり革につかまり本を読んでいました。
目の前に座っている人たちは見事に全員、携帯・スマホを忙しそうに操作しています。

しばらくして、私の近くの席が空きました。
その席の前に立つのは、スマホとにらめっこのビジネスマン風の若い男性と、高齢の荷物を持った疲れた女性。空いた席は、微妙に2人の「中間」......と、そのスマホに夢中の男性が席が空くやいなや回りも見ず、スマホを見つめたまま、お尻からズズーッと席に座ってしまったではないですか!

私は絶句。

次の駅でまた近くの席が空きました。
すると、これまた携帯に首っぴきの中学生と思しき男の子が、携帯から目を離さず、ささーっと座って熱心にゲームを始めてしまいました。
ええ~~~っ、何なの~~~!?
私の立っている位置がもっとその中学生に近かったら、高齢の女性に席を譲るよう声をかけようかと思ったのですが、いかんせん混んでいる上にちょっと距離が。

隣に誰が立とうが、どんな人が乗っていようが、画面しか見てない彼ら。
携帯・スマホが悪いのでしょうか???

これまで、自分の前の席が空こうともすぐには座らず、誰も座らないのを確認してから、ゆっくりと腰を下ろすビジネスマンたちを私は幾度も見てきました。
でもいまや携帯やタブレットの画面を見ることが最優先。落ちついて座って操作したいから、座席が空けば我先にと座る。
情けなくないのかなぁ...電車の中でまで画面を注視しなければならないほど、それは大事なことなのですか?

別の日。

その日も私は夕刻の混み合う電車の中にいました。
ある駅から、さらに多くの人が乗り込んできました。
その中に、高齢の女性とたぶんそのお孫さんと見られる10代後半~20代前半ぐらいの若い男性がいました。
混んだ社内でよろけながらドア付近のポールにかろうじてつかまったその女性のそばには、彼女をかばうようにお孫さんの男性が。
女性は地方からお孫さんに会いに上京されたのか、手には多くの荷物を抱え、お顔には疲労の色が。

目の前の席はと見れば、座っているのは、比較的若い人たちばかり。携帯をいじっているか、目をつぶっています。
ああ、あの女性、辛そうだなぁ。席が空けばなぁ......そうしたら、声をかけられるのに......
そう思っていると、しばらくして私のナナメ前の席が空きました。
すかさず私は、女性の連れの若い男性の肩に思い切り手を伸ばし、触れると言いました。
「どうぞ」

一瞬怪訝な顔をしたその男性は、席を指し示す私のしぐさにうなずくと「あ、スミマセン、ばあちゃんほら、どうぞって、よかったね」
と、女性を席に。そして、自分はまたポールの方へと移動しました。

次の駅でその女性の隣の席、つまり私の目の前の席が空きました。
「どうぞ」
私はまた男性の肩をたたきました。
「いえ、いいです」
緊張した硬い表情で彼は答えます。
「どうぞ」
「いえ、いいです」
「私は次の駅で降りますから、ご一緒に座ってください」

ようやく彼は恥ずかしそうに、ちょっとぎこちなくほほ笑むと、
「ありがとうございます」
と、頭を下げて、席に座りました。

電車が次の駅に着き、私がドアに向かって体を動かした時、彼と目が合いました。
また恥ずかしそうに、でもとてもうれしそうに、再び、「ありがとうございます」と会釈をしてくれました。
「お気を付けて」
そう言って、私は電車を後にしました。

思春期特有の神経質な、少し厳しく見える視線がふっと緩み、彼の顔中に幼い笑顔がぱ~っと広がった時、なんだか私はとても感動してしまいました。
いいなぁ、この国の若者も! なんてつきなみですけど思ってしまいました。
彼の笑顔を思い出すたびに、私はとても幸せな気持ちになります。

電車の中で携帯やタブレットばかり見ている皆さん、回りをちょっと見渡してみませんか。
ネットの向こうの人とつながるよりも、ほんの少しの思いやりや心遣いで生身の人と触れ合うほうが、ずーっといい気分になれますよ~。