2012年6月25日

「いいものを安く」という考え方(2)

「いいものを安く」という考え方(1) では、未来工業社の山田相談役の言葉を引いて、「いいものを安く」の姿勢そのものが日本経済停滞の原因の1つという考え方にも一理あり…と書きました。

一方で、「いいものを安く」が成立する世界もあると思っています。
「『いいものを安く』提供したい」と腐心する私の友人たちがいます。
彼らのそれはビジネス戦略なのではなく、また、強い経営理念・哲学によるものというより、「自然体」、「当たり前」。
純粋に「相手に喜んでもらいたい」という気持ちで動いており、自らの価値の提供、あるいは経営スタイルが買い手・食べ手とのコミュニケーションの1つにさえなっているように思えます。

もちろん、慈善事業ではありませんから採算ラインを考えて経営しなければなりません。
しかし、そもそも儲けを狙って始めた事業ではありませんから、「そこそこの儲け」、あるいは「とんとんでよし」とし、むしろ彼らの損得抜きの誠実な姿勢が顧客にまっすぐに伝わり、ヘビーなファンを獲得しているのもまた事実なのです。

宮城県南三陸町の三浦さき子さんもその1人です。

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「いいものを安く」という考え方(1)

「衰退の元凶は、『いいものを安く売ろう』という発想だね」

MSN産経ニュースの特集【話の肖像画】「日本一幸せな会社 未来工業創業者山田昭夫」の記事冒頭で、記者の「日本の経済は低迷続き、何が悪いんでしょう?」の質問に答えた、山田相談役の答えです。
「その先にあるのは過当競争。これでどうやって儲かるんですか? アメリカの製造業の経常利益率は平均で35%なのに、日本の製造業は3・5%しかない。日本の方が技術は断然、優秀なのにおかしいでしょ」

未来工業株式会社は、昭和40年創業の岐阜県本社の設備資材の中堅企業。
上司への「ホウレンソウ(報告、連絡、相談)」・残業・ノルマ一切禁止というユニークな「ルール」、70歳定年など企業の一般常識を覆すくような経営で業績を伸ばし、創業以来赤字なし、売上高経常利益率は15%という優良企業なのです。

「社員をコストにするな」
相応の処遇をすれば社員のモチベーションは上がり、70歳定年に引き上げることでその下の世代が自身の将来設計が描きやすくなり、奮起できる……なるほど、その通りだと思います。
要するに、会社経営の基本は、まずは「社員」、「人」を大事にすることであると。

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2012年6月 6日

農家民宿は特別?

関東地方もいよいよ梅雨入りしそうな気配です。

6月2日付日本農業新聞の論説は、農家民宿についてでした。
何気なく読み進み、「ん?」。そして、「んー、これはちょっといただけないかも……」
ってなわけで、一言。

タイトルは、「農家民宿の経営/質高め副業から主業へ」。
論旨は、
「全国に農林漁家民宿が4000戸以上ある。開業も相次ぎ、時代の追い風が吹いている。だが、質の面で多様な時代にニーズに応えられていない面もある。 農林漁家民宿は被災地の復興にも寄与するような地域活性化の大きなポテンシャルを持っている。ゆえに、経営の課題をみんなで解決して地域で育てよう」
といったものでした。

農家民宿へのエールは賛成です。
ですが、なんか生ヌルイ…。
私が特に違和感を持ったのは、次の一文です。

「都市と農村の交流事業を手掛けるオーライ!ニッポン会議が、約60人の民宿経営者(女性)に経営を自己診断してもらった結果、『安全・衛星管理』と『経営センス』が欠けていると答えた女性が多かった」

これに対して、論説では、「個人で悩まず、地域や同業者のネットワークをつくって地域で活性化を考えていくことも大切だ」と主張しておりますが、そんな暢気なことでよい?? 

経営センスはともかく、「安全・衛星管理」面が欠けている……。
このことはつまり、宿業としての根本・基本的姿勢に欠けているということを表しています。
時代の多様なニーズに応える云々以前の問題ではないでしょうか。

私が厳しい言い方をするのは、農家民宿という「宿屋」を経営することは、「安全に安心して泊まれる一晩の宿を提供すること」であり、人の命を預かる仕事だからです。

ずっと以前、農業雑誌の編集長をしていた頃取材したあるペンションのオーナーの言葉が忘れられません。
「農家民宿で、どんな体験プログラム提供しようがかまわない。だが、我々宿屋の基本は、お客さまの命をお預かりする仕事。それを理解してこの仕事に参入してほしい」(詳細は忘れました、こんなニュアンス)

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