2010年8月17日

プロボノに思う

少し前になりますが、テレビで、アメリカを中心に増えてきている「プロボノ」という新しい働き方について特集していました。
「プロボノ」とは、もとは弁護士などの法律に携わる職業の人が、無償で公益的な仕事あるいは法律活動をすることで、語源はラテン語で「公共善のために」の意味があるようです。
今では法律分野に限らず、各分野の専門家が知識や経験、スキルを活かして社会貢献するボランティア全般を指すそうです(Wikipediaより)。

最近では日本でも広がりを見せているのだとか。
一見、大変素晴らしい活動。でも私はちょっと疑問に思ったのです。

プロボノは、人的・資金的に不足しているNPOへの支援として活用されています。
NPO側のニーズと知識・経験・スキルを持ったプロボノ登録者をマッチングさせ、チームを組んでプロジェクトを実行し、成果を出すというもの。
番組前半では、プロボノチームがNPOの要請を受けてホームページリニューアルのプレゼンをする場面が映し出されていました。メンバーは、非常にやりがいを感じているようで目が輝いています。
広告代理店でコピーライターとして働く女性のコピー提案に、NPOの担当者は
「自分もじーんときた言葉がいくつかあった。サイトだけでなく全体を支援していただいた。ありがとうございます」

番組後半では、企業がプロボノ活動を活かして社員のモチベーションをアップさせている事例を紹介。
プロボノへの参加により、社内での業務にも良い影響が出るのだとか。
会社の仕事にやりがいがないから週末ボランティアにいそしむといった類の例は私の周囲にも数多くあります。また、会社では得られない感動や刺激を受けるために、ボランティア活動をするのだという人もいます。
ただ、本来ならば、会社の仕事でやりがいを見つけるべきであり、会社は社員のモチベーションアップの工夫をすべきですし、そうした機会を提供すべきでしょう。

ですが、最近では、厳しい経済情勢の中、これまで以上のコスト削減が求められ、「勝ち組」「負け組」といった生き残る術ばかりが強調され、仕事を通して社会に貢献する、他人に喜んでもらうなんて、「何、夢みたいなこと言ってるの?」と一笑に付される傾向にあります。
「ありがとうという言葉を聞いたことがない」
「何のために仕事をしているのかがわからない」
という不安がプロボノ参加者が増える背景にあると、この支援団体のアンケートから浮かびあがってきたと番組では紹介していましたが、番組に出演していた大学教授も「むしろ今の日本の企業文化が変わるべき」とコメントしていました。

番組の概要は、下記のブログに詳しいです。
http://nikonikositaine.blog49.fc2.com/blog-entry-1464.html

番組に出てきたプロボノ支援団体のサイトは以下。
http://www.servicegrant.or.jp/program/

ところで、私がもっとも大きな違和感を抱いたのが、番組前半のプロボノチームプレゼン後のメンバーの1人(男性)へのインタビューです。
彼は、プロボノの魅力をこう語っていました。
「おカネが絡んでいないので、素の気持ちが返ってくる。そこが仕事と違う」
聞いていた私は、思わず「えっ?」

彼は、ビジネスのように本音と建前や駆け引きがないから心底「ありがとう」と言ってもらえる、それがうれしいと感想をもらしているのだと思うのですが、私はおカネが絡む場面でも素直な感謝が返ってくるような関係性を構築して仕事をしたいと奮闘している人間です。
「仕事とはそうではないもの(ありえないもの)」と、彼が断言していたのを見て、彼が否定する「仕事」を成立させようとしている私のような人間は一体何なのでしょう……(笑)。

おそらくこの番組に限らずプロボノは美談として、また未来の働き方、企業とNPOの関係を変えるという希望の光として紹介されるのでしょう。

番組に登場したブロボノ参加者は、大手企業の社員の方々でした。
少しシニカルな見方をすれば、彼らは定期的に給与が入る安定した環境にあり、その余力でボランティア? もちろん日常のお仕事は並大抵でなく多忙なのでしょうけれど。
少なくとも、彼ら自身がプロボノで犯すリスクはありません。

それともう1点。
たとえば、番組で紹介されていたホームページづくりなど、プロボノ(無償)で質の高いものを制作することが、その仕事の価格破壊につながらないと言えるでしょうか???

ある時期から地方自治体の仕事をNPOが委託することが多くなってきました。
その結果、「NPOなんだからもっと安くできるはず」、「ボランティアでやってるんだからタダ同然でしょう?」と、行政の仕事を安く上げるためにNPOを活用するといった事例が増えました(現在は、“NPO育成”という名のもとに、NPOが事業を採択する…というよりNPOに優先採択とも言えるケースが増え、民間企業が行政の仕事を獲得するためにNPOを立ち上げるという本末転倒の例も見られます)。

「タダでやります」が出現したとたん、それまでの仕事の価値が下がる業界もあります。
今では、パソコンやソフト、カメラが高性能になったおかげで、アマチュアが難なくそれらしい写真を撮影して画像処理してアップすることが可能になりました。
ブログの流行で、ネットの世界には、文章を書くのにスキルは要らない?と思われるような珍妙な文章や間違った使われた方をした用語が溢れかえっています。

アマチュアとプロフェッショナルの垣根が曖昧になった結果、アマチュアがプロフェッショナルの世界に参入してきて、タダ同然のサービスを展開して値崩れが起きていると言ってしまっては言いすぎでしょうか??
そんなことではビクともしないプロのクオリティが求められるお仕事も存在しているとは思いますが。

世の中デフレでどの業界も価格は下がる一方。その中で努力した者だけが生き残るんだ!……と叱咤されそうですが、プロの仕事の存在意義だけでなく、仕事の質そのものが変わってきてはいる部分はないでしょうか?

報酬とは、労働に対する対価です。
前掲の番組のコメンテーターの先生が最後に
「日本では、働くとは“傍(まわり)を楽にすること”が語源と言われる。日本は労働の根本に社会貢献がある国だ」
と言っておられました。

働くとはいったい何なのでしょうか?
その仕事に対する敬意、働く人への尊敬の念を、我々は失ってしまってはいないでしょうか。

新しい社会システムとしてのプロボノには大いに賛成です。
ただ、労働の意味、労働の価値について、考えるべきこともあるのではないかと思うこのごろです。