2010年7月31日

心の贈りもの

書こう、書こうと思っていたエピソードがあります。
と、ぐずぐずしているうちに1カ月が経ってしまいました。毎度のことでホントにスミマセン…。

夏の青空.JPG

6月のある日、南青山で打ち合わせが終わって表参道を歩いているとき、ふと、「ああ、そういえば確かこのあたりに朝倉さんのオイルを取り扱っているお店があったはず」と思い出し、あたりをふらふら。
脇道に入ると、その店、「BROWN RICE」が目の前に現れました。
“朝倉さん”とは、昨年、私がある農業雑誌の仕事で取材した福島県会津若松市でイタリアのオリーブオイルやパスタ、小麦などのを輸入・販売する会社(「輸入販売アサクラ」)を経営していらっしゃる女性・朝倉玲子さんです。

取材といっても、東京駅構内のカフェで小1時間ほどインタビューさせていただいただけ。
ですが、すぐに私は朝倉さんの飾らない気さ くで誠実なお人柄に惹かれ、また、「私は自分のオリーブオイルを売っているつもりはない。(頻繁に開いている人気のオリーブオイル料理教室で)オリーブオイルの使い方、食べ方の提案をしているだけです」との言葉に、野望や欲望とは無縁の、自然体の朝倉さんの姿を見たようで大いに共感しました。

ここで簡単に朝倉さんが「油屋さん」になった理由を…。
料理修業のために働いていたイタリアの有機オリーブ栽培の農家民宿でのこと。
「毎日の料理にはふんだんに自家製オリーブオイルが使われていたのですが、その味に驚いたんです。ものすごく美味しくて。それまで私が知っていた、日本で使っていたオリーブオイルとはまったくの別物でした」(朝倉さん)
またあるとき、自家用オイルが切れ、やむなくオーナーが市販品を使って作った料理のまずかったこと。当時日本で売られていた安いオリーブオイルと同じ味がしたそうです。
「本物のシングルエステート(単一農家製造)のオリーブオイルを日本に伝えたい」
自らの足で納得のいく安全で美味しいオリーブオイルを探し、朝倉さんは輸入を始めます。

朝倉さんのさらに詳しいプロフィールは、こちらを。
http://www.orcio.jp/presen.html

取材後、私は「輸入販売アサクラ」のサイトから「オルチョ・サンニータ」を購入。岩塩を混ぜ、バゲットにつけて食べた瞬間、思わず「美味しいっ!」と口に出して叫んでいました。それほど感動的に美味しかったのです。
さわやかでフルーティーなオリーブ独特の豊かな香り。口に入れるとそれが鼻腔に抜けてゆき、クセのないまろやかで濃厚な味が広がります。
すっかりファンになった私は朝倉さんに味の感想を伝え、その後何度かメールでやりとりする仲となりました。
もちろん、予約限定販売の一番搾り「アサクラオイル」(2005年から朝倉さんがイタリア・アブルッツ州の5ヘクタールの農園でオリーブ栽培を始めて商品化した、自身の名を冠したオイル)もいまかいまかと待ち望み、早々に予約してゲットしました。

そんなアサクラブランドファンの私は「BROWN RICE」の棚に、「オルチョ・サンニータ」を見つけて小躍りしました。
なぜならば、大量生産していない朝倉さんのオイルはとても希少なのです。「輸入販売アサクラ」のサイト上では早々に完売してしまう商品も。
それがこの日は「オルチョ」の隣に朝倉さんが展開する新商品「アックアサンタ」も並んでいるではありませんか!
迷わず、2本を購入した私は、大満足で帰途につきました。

途中、銀行のATMに寄りました。
この時、ATMのブースの操作画面右のスペースに商品の入った手提げ袋を置いたのが間違いでした……。

帰宅してしばらくして、久しぶりに朝倉さんに連絡しようと、メールを書き始めました。
そして、新商品の名前を買ってきた商品で確認しようとして、頭の中が真っ白になりました。
銀行のATMに手提げ袋ごと置き忘れたことに気づいたのです。
しかし、帰宅してからすでに1時間が経っていました。
絶望的な思いですぐに自宅を飛び出し、ATMに向かいました。

全てのブースを、それ以外もくまなく注意深く何度も何度も捜しましたが、どこにも見当たりませんでした。
茫然としながら、交番へ行き遺失物届を提出しましたが、「残念ながら食品ですから、出てこないでしょう。銀行へ問い合わせては?」と言われる始末。
ATMに戻り、忘れたのはおそらくここだろうというブースから備え付けの電話の受話器を取りました。
「申し訳ございません。そういった商品のお届けはありません。交番へ行かれたほうがよろしいかと」

ぼんやりしていた間抜けな自分に、何よりも忘れてしまいさぞや困っているであろう落とし主にの気持ちを慮ってくれなかった拾い主に猛烈に腹が立ちくやしくて、ほんの少しの思いやりもなくなった世知辛い世の中がむなしくて、涙が止まらなくなりました。

私は朝倉さんにメールの続きを書き始め、事の顛末を伝えました。
その夜、朝倉さんから返信がきました。
「私も悲しいです。せっかくお求めいただいたのに。でも、明日はきっといいことがありますよ、きっと」
2本で6000円相当。でも、金額は問題ではありませんでした。
朝倉さんの商品に久しぶりに出会えた喜びとその商品が使えることへの感謝を伝えようとしていた私は、なんだか朝倉さんに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
私は次のように返信しました。
「何が悲しかったかといえば、失くしたものが自分の知るつくり手の気持ちがこもった特別なモノであり、つまりきょうの2本は私にとって朝倉さんそのものでした。まるで友人からの大事な手紙を持っていかれたようなそんな寂しさ。でも、ここは気持ちを切り替え、朝倉さんのオイルをプロモーションしたのだと思うことにします。その人、きっとファンになるはずですから」

翌日、帰宅すると、宅配便の不在通知が入っていました。
送り主欄には「アサクラ」の文字。
「えっ!?もしや……」
届いた商品の梱包を解きながら、またも私は泣いていました。
中には私が失くした2本のオリーブオイルと同じ商品が入っていました。
私からのメールを読んで、朝倉さんは翌日到着するように、即効で発送してくれたのです。

「もったいなくてとても食べられません……このオイルは私にとって数万円、いえ数千万円にも値します」
朝倉さんに御礼のメールを書きながら、再び私は泣き虫になっていました。
失くした大事な友人からの手紙が、宝物と一緒に戻ってきました。
朝倉さんの損得抜きのまっすぐな「心」に触れたとき、お腹の底から感動と感謝の気持ちが噴水のように湧き上がってきて、私の中の朝倉さんと彼女の商品への信頼は不動のものとなりました。オイル2本.JPG
▲これがその朝倉さんからの心の贈り物。左が「アックアサンタ」(お皿に入れたオイルも)。原料は、福岡正信氏の自然農法で作られたオリーブ。「輸入販売アサクラ」のアックア・サンタのページには、「初めから100%は目指さず、一歩一歩品質と彼ら(生産者)の経済状況を向上できるように、価値のわかるユーザーの確保、理解していただける方を増やすのが私の役割と思っています」とある。朝倉さんらしい……。右は「オルチョ・サンニータ」。

オルチョ.JPG
▲菜の花の香りがする、「オルチョ・サンニータ」。年によって味が少し変わるのもまた楽しみでいい。

もちろん、通常の商行為の中では、購入者の都合で紛失したものを再発送するというイレギュラーな対応はありえないでしょう。
今回のケースは朝倉さんと私の、日常の人間関係がベースにあってのことです。
しかし、私の「買ったけど失くしてしまった」というメールは嘘である可能性だってあったはずです。
それを朝倉さんは私を信じて、私の「気持ち」に「気持ち」で返してくださいました。
そのことが私はうれしくて、うれしくて、涙が止まらなかったのです。

システムの中でのおカネとモノの交換だけ、あるいはマニュアル通りの対応は効率的で面倒がありません。
でも、モノを買う行為とはいったい何なのでしょうか? 
私はモノはつくり手自身であると思っています。
一見非効率的で無駄なことの中に、「モノを購入すること」の本質的な意味があり、それを体感することで商行為が違ったものになる、商行為の中にも感動が生まれるのではないかと……私はそこに期待したいと思うのです。

輸入販売アサクラ
http://www.orcio.jp/index.shtml

写真キャプションで触り部分を紹介した「アックア・サンタ」のプロフィール、朝倉さんの思いは下記に詳しいです。
http://www.orcio.jp/acquasanta/index.htm

上の「輸入販売アサクラ」の「アックア・サンタ」のページ下欄に、生産者との出会い~商品完成までのブログがあります。そちらもぜひご覧ください。
特に、この「最終回」を!▼ 
http://orcio.blog51.fc2.com/blog-entry-217.html

夏の木陰.JPG