2009年3月31日

ローズガーデン物語 第5回 いのち

これからどうする.JPG

脳腫瘍の手術を終え、一命を取り留めた桜庭さんの奥さま。
さあ、これからどうする?
いつのまにか巣箱の住人となり、その新居の窓から外の様子を眺めて思案するカエル。
退院した奥さまを車に乗せ、病院を後にしながら、桜庭さんもあれこれいろいろ思いを巡らせます。
踏み出した次の一歩は、公民館でのハーブ講座の開催。後のローズガーデンへの布石です。

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新しいいのち.JPG

▲どんぐりから芽を出したコナラの木。大地に根ざす、小さな第一歩。

一度は失いかけた生命。知らぬ間に、足元に大きな大きな落とし穴が掘られていた。
見えるなら、誰でも避けたい。見えないところに、ブラックホールのような不気味さ、怖さ、畏れを感じる。
ブラックホールの淵に立たされた人間は、いのちの有り難さを身にしみて知る。粗末にはできない。同時に、この世に生きている証を残したい、と考えるようになる。
妻の術後は、順調に回復した。
頭を包帯でぐるぐる巻にした妻が、病院1階待合室に隣接した売店に下りて行くと、人々の目線が一斉に妻の頭に向けられたそうだ。
妻は予定通り2週間で退院できた。2月の半ばになっていた。退院した妻を車に乗せて、町中の公民館に寄った。
「私、こういう者ですけれど」
私と同年輩の男に名刺を手渡した。
「公民館で新規に行う講座に余裕があるようでしたら、『ハーブの講座』をやってみたいんですけれど」
私の名刺を見ながら男は、ちょっと待ってくださいね、と言いながら、自分の席にファイルを取りに行った。
「今、ちょうど来年度の予算請求しているところなんです。うまく行くと、新規の講座としてとおるかもしれません。
1講座5回で考えていますので、5回分の内容を文書でいただけますか」
担当者は、飲み込みが早かった。この人は、仕事のできる人だな、と直感した。
講座5回分の内容を文書で提出した。4月に入って間もなく文書で回答が来た。
ハーブの講座を5月上旬から実施することになった。
「5月上旬までに、髪の毛伸びるかしら」
妻は、髪の毛を心配していた。妻が、講座のアシスタントをすることになっていた。
非常勤で勤める高校には、カツラをつけて出勤しはじめていた。   (第6回へつづく)

冬来たりなば.JPG

▲冬来たりなば…バラの花芽とともに、厳しい冬が去ったあとに訪れる春に希望を見い出す。