2009年2月19日

ローズガーデン物語 第3回 役者(1)

一生懸命(マダムイサックペレール).JPG

お待たせいたしました。
前回、奥さまに脳腫瘍が見つかる衝撃の展開を見せた桜庭さんの「ローズガーデン物語」。
写真の華麗なバラは「マダムイサックペレール」。
花が美しいのはやがて散ってゆくことがわかっているから。
精一杯咲いている姿を、手術を受ける前の奥さまの姿に重ね合わせて......。
一輪の「命」の輝きです。
タイトル「役者」の意味は、次回明かされます。

妻は、脳外科専門とはいっても個人病院を受診していた。悪い病気だと、言われないことを無意識のうちに願っていたのかもしれない。
「私のいる東京の大学病院でなら、手術できますよ」
と担当医は、私たちに言った。ここでは、手術できない、と言いうことである。
「セカンドオピニオン」という言葉がある。市内には、脳外科を含むH総合病院がある。日を改めて総合病院を受診した。診断結果は、変わらなかった。
「こちらの病院で、手術できますか?」
私は、恰幅の良い速水医師に尋ねた。
「できますよ。脳腫瘍は、5万人に1人の割合で発症する病気ですから。このまちで1人いてもおかしくない」
年齢は、私たちと同じ40を少し出たくらい。堂々とした物腰に私たちは、闇の中に一条の光を見つける思いがした。同時に、地元医師会と総合病院との軋轢を感じた。手術ができる、と言う言葉を信じて、お願いすることにした。

ラベンダー地蔵「願い」.JPG

▲ラベンダー地蔵。備えられたラベンダーには「願い」が込められている。

「明日、動脈からカテーテルを入れて検査しましょう」
速水医師は、手配した。
翌日の午前中検査した。午後別室に呼ばれ、手術の方法について説明を受けた。
「手術は、時間にしてどのくらいかかるものですか?」
「順調にいけば5、6時間でしょう」
「頭蓋骨を開頭する手術を、先生おひとりでなさるんですか?」
私たちの顔は、曇った。
「心配ですか? もしかしたら、千葉にある大きな病院の先輩が手伝ってくれるかもしれないので、今電話してきましょう」
速水医師は、白衣の裾を翻して、部屋を出た。その間にベテランの看護師が、機材を取りに入って来た。
「速水先生は、大学はどちらなんですか?」
私は、看護師に小さな声で尋ねた。
「速水先生は、防衛医大ですよ。腕は、確かですよ」

機材を持った年輩の看護師は、部屋を出た。大学の名前を聞いて、根拠のない安堵感に包まれた。
入れ替わって、速水医師が現れた。                                      (第4回へつづく)

チョコレートのバラ.JPG

▲チョコレートのバラ。どんなに精巧にできていても、散るのことのない、命のないバラは美しくはない。