2009年2月 2日

ローズガーデン物語 第2回 落とし穴

ラベンダー(桜庭氏2回目).JPG

前回から始まった新コラム、農家の長男・桜庭さんの「ローズガーデン物語」。
父の死後、父とは別の楽しい農業に桜庭さんは挑戦します。
そして、その過程で……。
第2回は衝撃の展開です。


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はじめから畑にラベンダーを植え付け、工房を建てようと考えていたわけではない。
これより7年前になる。
ハーブに関心を持っていた。
特 に富良野のラベンダーを世に出したファーム富田に関心があった。富田氏の「私のラベンダー物語」を読んだ。富田氏も農家の長男であった。外国から安い香料 が輸入されるようになって、採算の合わなくなったラベンダーをトラクターで処分してしまおうとしていた。他の農家は、見切りをつけて処分している。しか し、富田氏は、ラベンダーがかわいそうで処分を先延ばしにしていた。
すると、カメラマンが来てラベンダー畑の写真を撮っている。その写真が、当時国鉄のキャンペーンポスターに2年連続採用された。翌年から富田氏のラベンダー畑には、全国から観光客が集まるようになった。


ラベンダー試験栽培(さくらば氏2回目).JPG

▲ラベンダーを試験栽培。

富良野で栽培しているラベンダー4品種を取り寄せた。同時に他の品種についても取り寄せ、合わせて20品種ほどを住まいに近い借りた畑で試験栽培した。挿し木で株を殖やしはじめた。
平成9年春頃から、妻が午後になると頭が痛くなる、と言うようになった。
「ストレスじゃない。ウォーキングでもしてみたら」
妻は、夕方ウォーキングをするようになった。その年の暮れになっても、頭痛は改善されなかった。
「医者に行った方がいいよ」
と言う私の言葉は届かず、非常勤で勤めている職場の同僚の言葉で、年明け市内の脳外科を受診した。
「私、脳腫瘍だって」
妻は、言葉を吐き捨てた。
それからが大変だった。
家にある家庭医学の分厚い本をていねいに読み込んだ。
ふたりで本屋に行って、最新の家庭医学書を読みあさった。安心できることは、何も書いていない。
妻が受診した脳外科を今度は、ふたりで受診した。
CTスキャンには、左目の上の方にピンポン玉くらいの白い腫瘍がはっきり写っていた。周りにいた看護師までもが、画像を見入っていた。
「良性だと思いますよ」
担当医は、妻を励ますように言った。
土地を買い、家を建て、丸2年経ったばかりなのに。
長女は、中学2年。長男は、小学校5年。今、死なれては困る。

足元に大きな落とし穴がパックリ口を開いていることに、ついこの間まで気が付かなかった。
(第3回へつづく)

家族(さくらば氏2回目).JPG

▲“家族”。工房前の池(屋根に降った雨水を落としている)にいる金魚たち。